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きょう聖(ねこミミ)

きょう聖(ねこミミ)

【小説】ねこミミ☆ガンダム 第2話 その3




英代と裕子は、自転車を立ちこぎして山道に挑んだ。
裕子が息を切らせていった。
「基地って……新高山にあったんだ。たしかに、ここなら車も少ないし、見つからないかもね」
「この先は検問があるから……。こっちかな」
ふたりは自転車を降りて、山の中の道に入った。
薄暗くなり始めた細い道を、草を掻き分けながら登る。しばらく行くと開けた場所に出た。
眼下には、いくつものこぶをつくる新高山の緑の尾根がはっきりと見えた。
「基地は、あの山の中だよ」英代はいった。「トンネルから入るんだ。あそこならネコミミ王国も簡単に攻められないでしょう」
「へぇ……。すごい大きそうだけど……」
「大きいよ。びっくりした。まだ、ほとんど行ったことないけど、シロネコを置いてる格納庫以外にも、たくさんスペースがあるみたい」
「本格的なんだ……」
裕子はおどろいたようだった。
ふたりは、しばらく無言で山の峰を眺めた。
そういえば、裕子とふたりで、こんな風にどこかに行くのも久しぶりな気がする。
日は傾き、空には夕焼けの色が混ざりはじめた。
裕子が口を開いた。
「英代は、将来は、どうするか決めてるの?」
「全然。考えたこともないな」
「そうなんだ……」
「裕子は、大学の医学部を目指してるんだよね。えらいなぁ」
「そんなことないよ。うちは代々、開業医だから、両親が継がせたがってるだけ。それに、私の頭じゃ、医者なんて、とてもとても……。患者がかわいそうになるわ」
「そんなことないよ。裕子なら大丈夫だって!」英代は励ました。
「ありがと。ウソでもうれしい」
「ウソじゃないってぇ!」
「あんた、私の成績が、どれだけ悪いか知ってる? あんたと同じくらいよ」
「私、後半から伸びるタイプだから」
『あはははっ!』
ふたりの笑い声が、人気のない山中に響いた。
「さ、バカ言ってないで帰ろう。暗くなってきたよ」
「うん。NPOの人には、私から話しておくね。みんないい人たちばかりだから。きっと、歓迎してくれるよ」
「そう……。よろしくね」
「いやー、うれしいな。裕子がいっしょにNPOの活動をしてくれるなんて。正直いって、ちょっと心細かったんだよね。中学生は、私ひとりだったから」
「私も、ネコミミ女王に負けないよう、がんばって戦うから」
見れば、オレンジ色に染まった空と、暗くなった山の緑とのコントラストが強くなっていた。
ふたりは山道を下りた。



深夜の繁華街に、裕子はいた。
もう終電も間近というのに、この街の住人は、何が目的で街をうろついていられるのか。
裕子は、ひときわ明るい光を放つ24時間営業のファーストフード店に入った。
全国にチェーン店を展開している「マックロドナルド」だ。シックな黒い内装の店内。それと対照的なポップで明るいメニューが、若者の間で人気だった。
入り口近くの席では、背広を着崩したサラリーマンが、椅子からずり落ちそうになって眠っていた。真っ赤な顔をしていなければ死んでいるようにしか見えない。
《ああはなりたくないはないものだ……》と、思いながら、裕子は注文カウンターに並んだ。
イチゴミルクバーガーとゼロカロリーコーラを頼んだ。ややあって、メニューが乗ったトレーが出てきた。トレーを持って2階へ向かった。
広い2階席は、深夜のわりに人は多かった。裕子は、壁に囲まれた隅の席に座った。
イチゴミルクバーガーの包み紙を半分だけ開いて、トレーに置いた。コーラの入った紙コップをトレーから出して、テーブルに乗せる。プラスチックのふたを外した。
これが合図だ。
黒づくめの服の女が、トレーを片手に近づき、テーブル席の向かいに座った。帽子をかぶってはいるが、その形からネコミミ族であることがわかる。
ネコミミ女は、ビック酢豚バーガーの入った箱を開けた。途端に、パイナップルの酸っぱいにおいが立ち上がる。
女は、小さな口でハンバーガーに食らいついた。
裕子は声を落とし、できるだけ親しげに見えるよういった。
「お待たせ。首尾はいいわ」
「基地の場所は?」女はたずねた。
「もちろん。わかったわ」
裕子は微笑んで見せた。が、すぐに、酢豚のにおいを遠ざけるよう、息を吐き出して、背を反らした。
ネコミミ女は、それを気にも止めず、酢豚バーガーを口に運んだ。
「上出来ね」食べながら、目付きだけは鋭くしていった。「もうひとつだけ、大事な仕事があるわ」
「わかってる……」裕子は表情を固くした。「すべて、やりとげてみせる」
ネコミミ女は酢豚バーガーを飲み込み、紙ナプキンで上品に口を拭いた。
「お上もお喜びになるわ」
ニヤリと笑う。と、手のひらに余るほどの大きさの袋を、上着の内ポケットから取り出した。袋がテーブルにのる。ジャラッと、金属の音がした。
「報酬の一部よ。前金として渡すわ」女が目で促した。
袋の中は見るまでもない。今、ネコミミ族を通して世界中に流通している金貨、通称〈ネコミミ金貨〉だ。裏にはピースでポーズをする、かわいらしいネコミミ女王の肖像が彫られている。これ1枚で数万円の価値があるという。それが30枚は入っているだろうか。中学生にとっては大きな金額だった。しかし、それは、裕子が本当にほしいものではなかった。
「こんなものはいいのよっ……!」裕子は、いまいましげにいった。「それよりも約束は……。あの約束は守ってもらえるんでしょうね……!?」
裕子の強い視線を、ネコミミ女は受け止めた。
「当然よ。40億の民をひきいる御方が、中学生ひとり信用させられないで、どうするの。働いたものは報われる。それは、ネコミミ族だろうと地球人だろうと同じことよ」
「……そうね」
「問題は、何のために働いたか」
「私は、私のためにやるだけよ」
「そう。だからこそ、あなたはこちらについたのでしょう?」
そういって、ネコミミ女は口を歪めた。
裕子は、金貨の入った袋をポケットに押し込んだ。
裕子が本当にほしかったもの。
それは〈未来へのチケット〉だ。
それがなければ、人は、屍のようになって生きるか、自ら命を断つしかない。それは、お金などで簡単に買えるものではない。人として、まともに生きるには、それがどうしてもいるのだ。
そのチケットを得るためには、全財産どころか、全人生さえも賭ける。矛盾したようだが、命さえ投げ出すこともある。それほどに大事なものだった。
それがなければ、裕子も、あるいは、あのサラリーマンのように、屍になって生きるしかない――。そう思うと、背中が震えた。
「約束だけは、絶対に守ってもらう」
「無論よ」ネコミミ女は、満足げに微笑んだ。
女が去った席で、裕子は、からになった紙コップを見つめていた。
すでに日付は変わっていた。あと数時間。裕子の人生を賭けた、はじめての戦いが始まろうとしていた。



早朝。
沈んだままの太陽の光が、わずかに空の端を染めていた。
山と山の影の間に、こぶのような大きな塊がある。新高山の山影と比べれば小さく見えた。それは機械の巨人――マシンドールだった。
暗い影のなか。真っ赤に光るマシンドールのひとつ目。それが、ぐるりと動いた。
コックピットには吉永裕子がいた。
裕子がコンソールを動かすと、マシンドールは大きく歩いた。巨体だ。いわゆるネコミミ族の量産機とは背丈はほぼ同じでも、横には2機から3機分ほどもある。
破裂せんばかりに膨れたボディー、とがった頭。それは相撲取りにも似ていた。日の光の下であれば、明るい緑色の装甲が見えたことだろう。
昨晩は、ファーストフード店で仮眠を取った。生まれてはじめてのことだった。眠気はない。むしろ、こんなに目の冴えた朝は、はじめてかもしれなかった。
今日が休日であることから、両親には「友達の家に泊まる」と、いってある。
両親は、裕子を信じている。こんな巨大兵器に乗っているなどと思いもしないだろう。いや、たとえ、それを知ったとしても「信じている」と、いってくれるだろう。両親は、いつも「良い子の裕子」を信じているのだ。そんなものが、現実に、いるのかどうかは知らないが。
裕子のマシンドールは、昨日、英代が指し示してくれた、新高山の中腹を目指した。山の地面の中には、巨大なマシンドールでさえも格納できる、大きな拠点があるはずだった。
マシンドールが、巨大な足で木々をなぎ倒しながら、ゆっくりと進んだ。
突然、山の中に大きな機械音が鳴り響いた。次いで、真っ暗だった森の中に、鋭い明かりがいくつもともった。
しかし、裕子は構わずにマシンドールを歩かせた。ここまで来れば、もう失敗はないはずだ。
裕子のマシンドールは、肩に担いでいたロケットランチャーのような武器を山の斜面に向けた。
まばゆい光があたりを照らし、銃口から放たれた光の束が山土に吸い込まれていった。
ズズ……と、音がしただけで反応はない。さらに、狙いを水平に向けて撃った。
沈黙のあと、ドドド……と、大地が揺れるのがわかった。
《当たった……》
裕子は、さらにランチャーを撃った。すぐに激しい爆発とともに、斜面から黒煙が噴き上がった。
「警告する!」
裕子は、外部スピーカーにつながるマイクに向けて叫んだ。
「今から、この基地を破壊する! 死にたくなければ、5分……、いえ、10分待ってあげるから、逃げなさい!!」
裕子は、コックピットで、あたりを見渡した。拠点が大きすぎることもあり、反応がうかがえない。どこかに入り口でも開けば、そこから進入することも考えていた。が、それもむずかしいようだ。
「このマシンドールを迎撃しようなんて思わないことよ……! 必ず、返り討ちにするっ……!!」
英代が来る前にシロネコは、自分の手で潰したかった。それが、親友である自分の責任だと感じていた。それができないなら、あとは、あの無鉄砲な友人が、無謀な反撃を試みないように祈るしかない。
空の端が白んできた。すべてを飲み込む深い紺色の中に、頼りない、うす黄色が混じり始める。
戦いは、すでに終わった。ネコミミ女王の勝利として――。



まだ太陽も顔を出し切らない早朝。
英代は、家の外で激しく鳴らされる、車のクラクションの音で目を覚まされた。
暴走車だろうか。休日の早朝とはいえ珍しい。
英代が、あらためて布団をかぶろうとすると、今度は家のインターホンが何度も鳴らされた。次いで、階段を駆け上がる大人の足音。
「英代ちゃん!!」ドアを開けたのは、血相を変えた母親だった。次に入ってきたのは夏江來だった。
「すまない、英代ちゃん! 拠点が、敵のマシンドールによる攻撃を受けている! すぐに出る準備してくれ!!」
うろたえる母親を尻目に、英代は、これだけ早く着替えたこともないというぐらい早着替えして、夏江來の車に滑り込んだ。
Tシャツの裾をスカートに入れながら、英代は運転する夏江來にいった。
「攻撃って!? どういうことですか!!」
夏江來は前を見据えながら、深刻な顔でいった。
「マシンドールが1体、手当たり次第に拠点の周辺を攻撃している。ネコミミ王国の反撃だろう。さいわい、シロネコを置いた格納庫の位置まで攻撃は達してないが……。時間の問題だ……」
「そんな……!」
「こんなに早く、敵に拠点を見つけられるとは思ってもなかった……」
「あっ……!」
「うん?」
英代は、昨日、裕子を拠点のある新高山まで案内したことを思い出した。身体中の血液が一気に凍るような不快を味わいながら、英代はいった。
「昨日、友達の裕子に拠点の場所を教えちゃったんです……。でも、まさか……」
「……」
夏江來は厳しい顔で前を見ながら黙った。
「で、でも、裕子は、いっしょにNPOに入って、ネコミミ女王と戦ってくれるって……! だからっ……!」
「いや、今は、犯人を探している場合じゃない。とにかく拠点に急いで敵を退けないと……。それも、間に合えばの話だが……」
「ごっ、ごめんなさいっ!!」
「気にしちゃダメだ」
夏江來は、安心するように横目に英代を見るといった。「その友人がばらしたと決まった訳じゃない。それに、もしミスだとしても、それは仲間で補うものだ。そうだろ?」
「……はいっ!」
不安で鼓動が早まる。
車は、猛スピードで早朝の街を走った。



英代たちを乗せた車はトンネルに突っ込んだ。真っ暗な道を走り抜け、シロネコを隠した区画にたどり着いた。
避難はすんでいるのだろう。スタッフの姿はない。
シロネコの足元に走り寄ると、そこには杏樹羅とニア博士、数人の整備スタッフが集まっていた。
杏樹羅が英代たちに近づいていった。「英代さん!!」
英代は息をあげながらいった。
「シロネコを……出しますっ! 皆さんは、すぐに避難してください!!」
「……」
無言の杏樹羅。スタッフたちも目を合わせて何も言わない。
杏樹羅が一歩前に出て、決然とした口調でいった。
「この基地は、もうもちません。シロネコを置いて、全員、退避します」
「えっ!? そんな!!」英代は声をあげた。「シロネコを奪われたら、それこそ女王のやりたい放題になりますよ!!」
杏樹羅は、静かにいった。
「英代さんにも、スタッフにも、これ以上、危ない目にあわせるわけにはいきません。これは代表である、私の判断です」
「やらせてください! あんな敵、シロネコの力であっという間に倒して見せます!!」
「あのマシンドールが、基地を爆撃しながら、英代さんの名前を呼んでいたという報告があります」
「私を!? まさか……」
考えていた最悪の事態が起きていることを英代は覚悟した。
「敵の本当の狙いは、シロネコとあなたです。基地によるバックアップが効かなくなった以上、中学生である英代さんに、危険な戦いをさせるわけにはいかないのです」
「わ、私……」英代は、渇いたのどに唾を押し込んだ。「みんなに黙ってろって言われてた、この基地の場所を、友達に話しちゃったんです」
「……」杏樹羅は黙って英代を見つめた。
「こんなことになるなんて思いもしなかった……! 私に、シロネコで戦わせてくださいっ!!」
杏樹羅は深く息を吐いた。夕飯の献立に迷う主婦のような顔になるといった。
「そうは言われても……。困ったわねぇ……」
「今、戦わないと、もう、ずっと戦えなくなるかもしれないんですよっ!?」
英代の必死な意見に、杏樹羅はきっぱりと返した。
「そんなことはありません。むしろ、これからが、本当の長い戦いになるもかもしれないのですから」
「でも、でも……」英代は杏樹羅に頭を下げていった。「これは……、これだけは、私の戦いなんです! お願いします! 戦わせてください!!」
杏樹羅は心底、困ったような顔をしていた。スタッフと顔を見合わせても答えが出るものではない。やがて、とつとつと口を開いた。
「……この拠点は、英代さんの勇敢な戦いに触発された、全国の篤志家の皆さんが寄付を寄せてくださってできたものなんですよ」
「そうなんですか……」
「私たちにできるのは、もともと、英代さんの戦いを支えることだけだったのかもしれませんね……」
「え! じゃあ!?」
「無理はしないように」
「ありがとうございます!!」
英代は、思わず杏樹羅に抱きついていた。
杏樹羅は、英代の背中を優しく撫でながらいった。
「あなたの今の顔、由利亜にそっくりだったわ」
「由利亜さんは、正しかったと思います」
「由利亜の勇気は正しいのです」
杏樹羅は、ニア博士たちに声をかけた。
「シロネコの起動準備を」
「もうしてあります」ニア博士がこたえた。
「英代ちゃんなら、戦うって言うと思ってね」夏江來がいった。「英代ちゃん! あんなマシンドール、一発でやっつけちゃってよ!!」
あきれるような杏樹羅を横目に、英代はニア博士とともに、シロネコのハンガーのわきにあるエレベーターに駆け寄った。
エレベーターに乗り込み、ふたりはコックピットの高さまで昇った。
英代の声でシロネコの胸の装甲が上に開いた。せり出したシートに飛び乗る。
シロネコの起動を確認する英代を手伝いながら、ニア博士は早口でいった。
「敵のマシンドールは、私でも見たことがない型です。こんなに早く新型を開発できるとも思えません。おそらくは、既存機体を改修したものでしょう。しかし、どんな行動を取るのか、予測はつきません。くれぐれも用心してください」
「はい!」
最終確認を終えた英代を、ニア博士は、まっすぐ見据えていった。
「英代さん。このシロネコは、ネコミミ族に古くから伝わる〈ニャンダム思想〉に基づいて創作されました」
「ニャンダム思想!? にゃ……何ですか!? それは!?」
「たった一粒の種が成長し、世界を潤す大樹となるように、たったひとつの存在が全世界を、全宇宙をも変える。そして、その〈種〉は、すべての存在に、もとより備わっているという哲学です。あなたとシロネコを見ていると、どんな相手にも負けることはない――と、そのように感じられるのです」
「むずかしいことはわかりませんけど……。シロネコの強さは、私もよくわかっているつもりです!」
「はい。ご武運を」
ニア博士は微笑むと、エレベーターを下げた。
「シロネコ、山本英代、出ます!!」
シロネコの巨体が、横にスライドするようにハンガーごと動いた。出撃用通路に入ると、滑るように通路を進んだ。



英代のシロネコを載せたハンガーは、出撃用の通路を高速で真上に昇った。
天井のハッチが開く。シロネコは山頂付近に出た。
外はまだ暗い。
空は白みはじめていたはずだが、いつの間にか広がっている薄い雲が、雨ともいえない小雨を降らしていた。
斜面の木々が、大きくなぎ倒されているのがわかったのは、所々に残る真っ赤な炎のせいだ。
目下には、膨れ上がったような装甲をしたマシンドールがいた。赤いひとつ目がにらんだ。
英代のシロネコは、斜面を滑るようにして敵に近づいた。
「あら、やっぱり来ちゃったの」
少女の声だ。巨大ないかついマシンドールから、スピーカーを通して、少女の声がした。「来なくてよかったのに……」
英代は、おどろきで体が震えた。
「その声……! やっぱりっ……!!」
コックピットに空間ディスプレイが開いた。英代のすぐ間近に、裕子のいつもと変わらない顔が現れた。
「わかるよね。友達だもの」裕子はいった。
「裕子っ! どうしてっ!!」
「そうね。ちゃんと説明してあげないとね」
裕子はいつもと変わらないようすでいった。「ネコミミ女王がね、言ってくれたのよ。シロネコのいる基地を攻撃して無力化すれば、推薦入学で、東大の文学部に入れてくれるって――」
「そっ、そんなことのためにっ!?」
「そんなこと? 大事なことでしょ。人生を左右するほどに」裕子は動じない。「私の成績じゃ、親のあとを継いで、医者になんてなれるわけがない。でも、私のコミュ力なら、大学に入りさえすれば、学部は違っても、同じ大学の男子とも仲良くなることができる。開業医を目指す医学部の男子を見つけて付き合えば、親のあとを継ぐことだって――」
「そんなことのためにっ!!」コントロールボールを持つ英代の手がブルブルと震えた。「私を……友達を裏切ったっていうの!? ゆるせないっ!!」
裕子は、あくまでも普段と変わらない表情だった。英代には、それがとても腹立たしく、かつ、不可解だった。
裕子は、さとすようにいった。
「いい? 冷静に聞いて。これはね、あんたのためでもあるのよ」
「はぁっ!? 何を言ってるのよ!!」
「じゃあ、聞くけど、あんた、高校受験や大学受験で試験を受けてるとき、ネコミミ軍が襲ってきたら、どうするの?」
「え!?」唐突な質問に英代は戸惑った。「そ、そんなの、事情を説明して、試験を抜けさせてもらうしかないじゃない!!」
「そう。理解のある学校ならいいけどね。なら、就職は? 王国軍にマークされてるような女を、雇ってくれるような会社はある?」
「それは……! そ、そうだ! 雲ヶ丘ガーディアンみたいな、NPO法人に勤めさせてもらえばいいじゃない! 給料は安いかもしれないけど……」
「そのNPOも、私が潰しちゃったけどね」
「裕子ッ!!」英代は声をあげた。
「叫ばないで。耳が痛いわ」裕子は、耳に指を入れて抗議して見せた。「それじゃあ、英代はNPOに就職して、職場で結婚したとしましょう。で、子どもができたらどうするつもり? 夜泣きする赤ん坊を家に置いて、ネコミミと戦つもり?」
「それは……。そこまで考えたことないけど……。旦那さんに任せたり、夜間もやってる保育園だってあるし……」
「旦那だって仕事してるでしょ? 大変よね。それに、今、政府にはお金がなくて、保育園は補助金が減らされてるから、よっぽどのセレブか、1日16時間以上働くお母さんしか、子どもを預けられないのよ」
「えっ! そうなの!?」
「何にも知らないのね……。近所の吉田さんの奥さん、陸上で国体に出て、オリンピック選手にも選ばれそうになったすごい人だけど、それでも働きながら子育てするのって、すごく大変だって言うわ。毎日、ヘトヘトになるぐらい疲れるって!」
「そんなに……!?」
「両親に預けるたって、お互いの家にも事情があるし、必ずしも、同居や近居ができると限らないのよ。なにより、両親だって、いつまでも健康でいてくれるとは限らない。子育てどころか、かえって介護が必要になることだって……! あんたみたいなゲームオタクが片手間でやっていけるほど、子育ては甘くないのよっ!!」
「そっ、それはっ! なら、早く結婚すればいいだけでしょ!? 私、若いうちに結婚するつもりだし!!」
裕子はあきれたように息を吐いた。
「あんた、まわりをよく見なさい。今は、ほとんどの人たちがアラフォーで初婚してるのよ? そんな中で、どうしてあんただけが、早く結婚できるの」
「そういう人ばかりじゃないでしょ!? 均の両親は!? まだ若いじゃない!!」
「自分の両親が出せない時点で、お察しじゃない……」
「ふぐっ……!!」
英代の両親は、どちらかといえば晩婚だった。
「そりゃあ、若いうちに結婚できれば、それに越したことはないでしょう。でもね、若くして結婚したって、それはそれで、いろいろあることが多いのよ!」
「たっ……、たしかにっ……!!」
「あんたは、自分の将来のことさえ、ちっとも考えてない! そんな人間が、ネコミミ王国と戦う!? しかも、子育てしながら!? バカも休み休みに言いなさいっ!!」
「くっ……!!」
裕子のいうことは、もっともな気がした。しかし、英代はまだ中学生だ。そこまで考えられないのは仕方ない。
英代は言い返した。
「じゃあ、逆に聞くけど、裕子は、ネコミミ王国が好き勝手して、日本の民主主義がおかしくなってもいいわけ!? あいつらは、自分のいいようにしか政治をしないのよ! 女王の独裁を許すのっていうの!!」
「民主主義ね。そりゃ大事でしょう。でも、あんたも私も、子どもだから、選挙権ないじゃない」
「……あっ!?」
英代は中学生なので、選挙活動も投票もしたことはなかった。
「民主主義も自由も、私たちには関係ないことよ。民主主義なのに選挙権がないなんて、奴隷そのものよね……。女王が独裁者? 笑わせるわ。 私たち子どもには、はじめから自由なんてなかったじゃないっ!」
「それはっ……!」
「子どもはね、自分の未来のことだけ考えてればいいのよ! 何が民主主義よ!!」
「だからって、みんなを裏切ってまで女王につくなんて間違ってる!!」
「ふふっ……」裕子は鼻で笑った。その余裕に、英代は自分が追い込まれていることを悟った。「よく聞きなさい。英代。自由が大事だ、民主主義を守れ。それは当然のことよ。じゃあ、そのために大人たちは、だれが本気になってネコミミ女王と戦っているというの?」
「そんなの、NPOの人たちがいるじゃない!」
「それは何人いるわけ?」
「え……!?」
NPOのスタッフは、英代が知るだけで数十人ほどだった。
裕子はたずねた。
「百人? 千人? たとえ、賛同者が10万人いたとしても、日本人の全人口からしたら0.1%よ? それ以外の大多数の大人たちは、何をしてるのかしらね……。そんなに民主主義が大事なら、みんなで戦えばいいじゃない」
「それは……」
「みんなね、忙しいのよ……。仕事に勉強、恋愛に子育て。それだけで目が回るほど忙しいの。それに怖いのよ。こんなマシンドールを数億体も持ったネコミミ軍なんかに、目をつけられたくない……! でも、民主主義も大事。自由も大事。じゃあ、どうすればいいと思う?」
「ど、どうって……」
「だから、バカな子どもをおだてて戦わせてるのよっ! あんたみたいなっ!!」
「!!」
「もし、負けたって、それなら『困ったね』のひと言で済むからね……」
「そんなっ……!!」
「子どもに選挙権がないのはどうしてか、わかる? 私たちが生まれるずっと前に、えらい大人が決めたのよ。子どもはバカだから、選挙権なんて持たせちゃいけないって……。こんなバカな世界を作った大人たちが、そう決めたの! それなのに大人は、この世界を守るために戦おうともしないっ……! あんたみたいな、バカな子どもをおだてて、矢面にたたせるような悪知恵はあってもね!!」
「うぅっ……!!」
「あんたは、こんな世界のために、人生を……命をかけて戦うつもりなのっ!?」
英代は打ちのめされた。裕子のいっていることがすべて正しいとは思えない。しかし、自分で、ここまで深く物事を考えたことはなかった。
それでも英代は言い返すしかなかった。
「じゃ、じゃあ、裕子は、均が女王につれてかれてもよかったっていうの!?」
「それこそよ。いっそ、均は女王と結婚すればよかったのよ」
「無理矢理、力で押さえつけて結婚しろとか、横暴にもほどがある!!」
裕子は表情を崩さない。
「そりゃあ、いきなりつれてかれたら、だれだっておどろくわね。それは女王が悪いわ。でも、慣れて付き合いはじめれば、そんなこともないんじゃない? だって、相手は世界を統べる女王よ? すっごい玉の輿じゃない。それなりにかわいいし」
「そんなことっ……!」
「そうよ。むしろ、均は女王と結婚すべきよ。そしたら均は女王の夫、公爵っていうの? 名門大学の推薦入学どころじゃないわ。友人である私たちだって、相当いい目が見れるはずよね。あれ、これ本当にいい考えじゃない? 今の時代、男だって大学を出ても正規社員になれるとは限らないんだし。最高の就職先じゃない!」
均の気持ちも考えない裕子の言い方に、英代は怒った。
「そんなの……権力の横暴以外の何ものでもないじゃないっ!!」
「そうよ? 権力なんて、いつの時代だって横暴なものじゃない。さっきの子育ての話だってそうよ。今の政府は、『産めよ育てよ』と言いながら、ちっとも子育て環境を整えようとしないっ……! なら、私たちみたいな庶民は、たとえ横暴な権力でも、どこかうまいところで折り合いをつけるしかないじゃないっ!!」
「裕子が、そんなこと言うなんてっ……!!」
「私は、いつでも未来を考えてる。いつでも行き当たりばったりの、あんたとは違ってね! そのシロネコから降りなさいっ! それが私たちのためなのよっ!!」
「そんなことない……! 裕子は間違ってるよ……!!」
それでも英代は、裕子のどこが間違っているか指摘できない。自分にはがみした。
「ネコミミ女王に従いなさい! 英代っ! そうしたら、あんただって推薦入学で早稲田大学の文学部ぐらいになら入れるよう、私が取りなしてあげるわっ!!」
「裕子は……間違ってるよ」英代は、声を振り絞るようにいった。「どこが間違ってるか、私じゃ言えないけど……!」
「それを正しいっていうんじゃないの? 退きなさい、英代……。そのマシンドールから降りさえすれば、あんたも私も未来を約束されるのよ」
英代は、裕子の乗る巨大なマシンドールを見据えていった。
「……私は、たとえ裕子が相手になっても退くつもりないっ! 友達を騙すような、今の裕子になんてっ!!」
「……でしょうね」裕子は深く息を吐き出した。「そう言うと思ってた。あんたは、そのシロネコに乗っている限り、自分が負けるわけがないと思い込んでる。だから、最後に教えてあげないとね――」
裕子のマシンドールが、獲物を定めた肉食獣のように、ゆっくりと前傾した。「――私が乗る、このマシンドール〈ニャ・O(オー)〉には、絶対に勝てないってことを!!」

裕子は声をあげた。
「ニャ・O! モーション・リンク! 起動!!」
裕子の座るコックピットシートが前傾し、座面が立ち上がる。直立するように変形したシートに背中を支えられながら、裕子はコックピットの中で立ち上がった。
コントロールボールにそえた両手と、フットペダルの上の脚が自由に動くようになる。その裕子の動きに合わせて、ニャ・Oが、裕子そのもののように動いた。
英代も声をあげた。「シロネコ! 全力っ!!」
シートが変形し、英代はコックピットで立ち上がった。
英代が拳を構えると、それに合わせてシロネコも身構えた。
ニャ・Oが、シロネコに向かって走った。
膨れ上がった巨体に似つかわしくないほど、その動きは速い。
――ガァンッ!! と、激しい衝突音があたりを震わせた。ニャ・Oとシロネコは、正面から激突し、相撲のように組み合った。
英代はいった。
「シロネコと相撲でも取るつもり!? こいつのバカ力、わかってないんじゃないの!?」
「わかってないのは、あんたよ……」
裕子はいった。「甘い……。甘すぎる……。イチゴミルクよりも、ずっと……! 口にも入れられないほどっ……!!」
ニャ・Oの太い腕がシロネコの背にまわった。強い力で抱きすくめられ、シロネコは上体が動かせなくなる。
「それならっ……!!」
英代は自由になる脚を後ろに引いた。引いた脚を上げ、ひざ蹴りを出そうとした、その時。ニャ・Oの腰を囲むようにおおっていた装甲が突如、変形した。装甲のかたまりは、2本の腕となってシロネコの脚を掴んだ。
ニャ・Oは、4本の腕で、そのままシロネコを軽々と持ち上げた。
「うっそぉ!?」英代はおどろいた。
シロネコは足が地面に着かない。コックピットの中で英代がいくら体をばたつかせても、ニャ・Oの吊り上げから逃れられなかった。
「軽い……。軽すぎる……。まるで、あんたの覚悟みたいよ……」
「くっ……!!」
ニャ・Oは、シロネコを持ち上げながら、太い腕でギリギリと絞め上げてくる。コックピットのまわりからは、はじめて聞くような装甲のきしむ音が、ギシギシと鳴った。
「シロネコ! 動いて!!」英代は必死で呼び掛けた。
「無駄よ……。こうなったら、ニャ・Oには、絶対に敵わない」
「動きなさいぃっ!!」
英代はコックピットで体をばたつかせた。それでも、シロネコを掴む4本の腕はビクともしない。
裕子はいった。
「私は、この手に、すべてを掴んでみせる。愛も、成功も……! あなたとの友情さえもっ……!!」
突然、ニャ・Oの背中から6方向に伸びていたスラスターのようなかたまりが動いて、その形を変えた。それぞれが1本の腕になる。
ニャ・Oの背中から、蜘蛛の脚のような長い6本の腕が伸びた。
もっとも上に生えた2本の腕が、シロネコの頭を掴んだ。真ん中の腕は、シロネコの肩を掴む。下から生える腕は、シロネコの胴体にまわった。
「なっ、何これっ!!」英代は声をあげた。
「弱い。弱すぎる……。この程度の力で、あなたは戦おうとしていたの? 勝てるわけないじゃない……。相手は、宇宙を統べる女王なのよ? 私さえ倒せないのにっ……!」
ニャ・Oの10本の腕がシロネコを絞めつけた。全身の装甲がきしむ。耳をふさぎたくなるようなギーギーという音が、うるさいほど鳴った。
英代のいるコックピットをかこむ全面モニターには、ニャ・Oの巨大な手が一面に映り、今にも英代を握りつぶさんとした。
英代は恐怖のあまり、思わず声をあげた。
「うぅっ……! うわあぁっ……!!」
「どう? もう、降参でしょ?」
「――ま、負けられないっ……!」
英代は、乾いたのどから声を押し出すようにいった。「負けられないっ! 今の、友達を騙すような裕子には!!」
「英代……」裕子は一段低い声でいった。「最後に、もうひとつだけ教えてあげる……。あんたに、私を批判する権利なんて――ないッ!!」
10本の腕のモーターが、うなりをあげる。シロネコの装甲を一気に押し潰さんとした。
「わあああぁぁぁッッ!!」
英代は、苦し紛れにシロネコの腕で、ニャ・Oの巨体に抱きついた。
「ハッ! こんな細い腕で、何ができるっていうの!?」
ニャ・Oが10本の腕に、さらに力を込めた。シロネコの全身がきしんで大きな悲鳴をあげる。
――バキンッ!! 激しい破壊音がした。装甲のどこかが押し潰されたのだ。
「シ、シロネコッ!?」
「えっ!? 何よ、これ!?」
思いがけず、裕子はおどろいた声をあげた。
動きを止めたのはニャ・Oの方だった。
シロネコの腕に挟まれたニャ・Oの胴体が、大きくへこんでいる。
ニャ・Oの背中から伸びる6本の腕のうち、もっとも上から伸びていた腕が力なく垂れ、掴んでいたシロネコの頭をはなした。
「ど、どうしてっ!?」
「裕子……!」
「接近して掴みかかれば、絶対に勝てるって言われたのに……!!」
「裕子っ! 騙されていたのは、あなたの方よ! シロネコを倒せるほど強い機体なら、そんなもの、あなたに使わせるわけないじゃないっ!」
「う、うそ……!!」
「そうだよ! 全部ウソだったんだよ!!」
「う……」
裕子は、倒れ込むようにうつむいた。すぐに、光のない瞳だけを前に向けるといった。
「ウソだって……かまわないっ! どうせ、この世の中は、全部ウソだらけなんだっ!!」
ニャ・Oの残った8本の腕がシロネコを絞め上げる。各関節のモーターが、黒煙を噴き、炎を上げながらシロネコを押し潰そうとした。
「そんなことないっ! そんなこと、あるわけがないっ!!」
シロネコの腕が、ニャ・Oの装甲をメキメキと押し潰した。
『うわああああああああぁぁぁぁぁァァァッッ!!』
ふたりの声がひとつになった。
山中に鳴り響く破壊音。
ニャ・Oは動きを止めた。抱き上げていたシロネコを、疲れたようにゆっくり下ろした。



山影に肩を寄せあうように隠れていた4体のマシンドールが、戦いの一部始終を見ていた。
シロネコとニャ・Oが、向かい合って動きを止める。
空間ディスプレイに映るネコミミ家臣の顔は、それを見て満足そうにほくそ笑んだ。
ネコミミ隊長はいった。
「なぜ……」
「なぜ突撃せんのですかっ!!」
突然、ネコミミ軍曹の大声が割り込んだ。それは、この場にいる兵たちの代弁だった。
「動きを止めたときに攻撃していれば、シロネコを鹵獲できましたものを!!」
ネコミミ家臣は、おもむろにこたえた。
「これでいい。あまり動きすぎて、ボロを出したくはない」
「しかし――」
隊長がいいかけたところで、また軍曹が口をはさんだ。
「あいつはっ! あれは女王さまの機体です! それを、あんな地球人の子どもに奪われたままで、よろしいのですかぁっ!?」
「もちろん、専用機はいずれ取り返す」家臣は静かにいった。「――が、シロネコとて所詮は戦術レベルの課題だ。今回、我らは、戦略において勝ったのだ」
「戦略……ですか」隊長はいった。
「納得できませんっ!!」軍曹はいい返した。
「諸君、作戦は成功だ。……もっと、よろこんでもらいたいものだな。帰ったら、たんまり褒美をくれてやろうと言うのだ」
家臣は珍しく笑った。
そこに指令部から通信が入った。ディスプレイに現れたのは、女王その人であった。
「報告は聞いた。この度の働き、大義である」
「はっ!」家臣はコックピットで頭を下げる。
女王はわずかに表情をゆるめた。
「やはり、お前を地球につれてきてよかったぞ……。マルティナ・ミケ・ラティン」
「はっ……! もったいない……お言葉ですっ……!」
家臣の声はうわずっていた。それに自分でも気づいたのか、以後、家臣は、普段のように口数が少なくなった。
それでも、さっきから、自らの頭上の耳が、ピコピコと、うるさいほど動いていることには気づいてないらしかった。
「本隊は、これより帰投する!」
家臣の命に、やけくそのような軍曹が応じた。



英代のシロネコは、へこんでボロボロになったニャ・Oの胸の装甲を、慎重にはぎ取った。
やっと現れたコックピットのシートの上には、ひざを抱えた裕子がいた。うつむいている。泣いているようにも見えた。
英代はシロネコの胸の装甲を開いた。コックピットシートを前に伸ばし、裕子に近づいていった。
「裕子……」何と声をかければいいか、英代は迷った。
「おしまいよ……。もう……」裕子はつぶやいた。「何もかも、すべておしまいだわ……」
英代は励ましていった。「裕子なら、絶対に大丈夫だよ……」
裕子は顔を上げて言い返した。
「もうっ……! どうして、そういい加減なことが言えるのよっ!!」
「裕子は大丈夫。……だって、そう私が信じるだけなら、私の勝手でしょ?」
裕子は、はじめて表情をゆるめた。
「……そうだね」
いつの間にか小雨は止んでいた。雲間から、まぶしい朝日が差し込んだ。



このあと、裕子は、漫画家のドラゴン・ピーチ先生が
経営する進学塾に通うようになる。そこでメキメキと頭角をあらわし、やがては早稲田大学に現役で合格することになる。――が、それはまた別の話だ。






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